東京高等裁判所 昭和28年(う)1481号 判決
被告人 藤田善二
〔抄 録〕
右弁護人等の控訴の趣意について。
所論は要するに、黒板の購入は教育課施設係の権限外であり、総務課用度係の職務に属するものであるから、教育課施設係長である被告人は原判示二葉黒板株式会社に対し、黒板購入に関して職務上便宜を与え得る権限がなく、またその職務が黒板購入に関して密接な関係があつたとも認められないから、本件は被告人がその職務に関して賄賂を収受したことにはならないと主張するのである。
よつて按ずるに、原判決挙示の証拠を綜合すれば被告人は東京都大田区役所教育課施設係長として、同区立小、中学校の校舎の増、新築の設計、校具その他一般備品の設備計画、校舎又は備品類の修繕計画をなす職務に従事していたものであり、而して右校具の内黒板が現実に購入設置される過程は、先ず教育課施設係において黒板の品種、寸法、数量、単価を定めてこれが購入についての原議を起案し、区長の決裁を得た後総務課用度係において右決裁書に基き購入契約締結についての原議を起案し区長決裁を得た上同用度係が購入を実施するものなること施設係は職制上技術の面において用度係より寧ろ充実しているので、直接業者と折衝し契約の実施を担当するのは職務上は用度係であるが、施設係もまた用度係とともに、校舎建築につきその監督をなし、備品納入につきその検収をしたのと同じように、黒板の購入につき前記第一次の原議を起案するに当つても黒板の品種を特定するため、その製造業者名を指定したものであり、該指定は右原議の決裁者において用度係の意見よりも尊重されてきたこと、そして本件二萬円は被告人が右施設係長として右の如く製造業者を指定すること等につき前示二葉黒板株式会社に対し好意ある、便宜な取扱をなすことの謝礼として供与されたものであることをそれぞれ認めることができ、原審証人鈴木万次郎の証言中右認定に反する部分はたやすく措信し得ないところであり、他に右認定を覆すに足る証拠は存しない。してみれば、被告人が前記の如く製造業者を指定することは、被告人の施設係長としての職務執行自体ではないが職務執行と密接な関係を有する行為と認むべきであるから、これに対する謝礼は被告人の職務に関する謝礼といわなければならない。原判決の認定するところも畢竟右と同一趣旨のものであることはその挙示の証拠と対照し明らかであり、従つて本件が被告人の職務に関する賄賂とはなり得ないとの所論は採用することができない。論旨は理由がない。
註 本件は主文の刑と擬律の部の刑との間にくいちがいがあるため破棄。
尚職務と密接な関係を有する行為と認定した同趣旨の事例は第三巻第五号一三一事件参照。